日本学術会議が新会員として推薦した学者の内,6名が菅総理によって任命されなかったことがニュースになっています。
このニュースについて,学問の自由の侵害だとか,これまでの慣習を無視してとか議論が巻き起こっています。中に,総理大臣に任命権があるのだから,任命拒否しても問題ないという意見も見られます。
が,この問題は,究極的には学問の自由の侵害といった事態も招くのでしょうが,単純に行政裁量を逸脱してるのかどうか?という問題だと思っています。
「法律による行政」という言葉どおり,行政が何か行うには,必ず法律の根拠が必要です。立法者(国会)が,法律の範囲内で行政の判断に一定の幅を持たせることがあります。これが行政裁量です。もっとも,すべての行政の判断に裁量があるわけではなく,行政にまったく裁量がない場合もあります。
たとえば,国家公務員法82条1項は,国家公務員の懲戒について規定しています。懲戒事由があれば,必ず懲戒しなければならないとは規定していません。なので,懲戒処分をするかどうかについて,行政裁量が認められるということになります。さらに,懲戒処分をするにしても,どの懲戒処分を行うかについても行政裁量が認められるということになります。
日本学術会議の会員の任命について規定した日本学術会議法7条2項は,
会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
と規定しています。そして,17条は,
日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。
と規定しています。
以上の規定からすると,学者として優秀かどうかは,総理大臣が判断することは事実上不可能なので,会員の選定を日本学術会議に委ねていると解釈できるでしょう。そもそも日本学術会議の推薦に基づかず,会員を任命できないのです。
また,会員の辞職(25条),退職(26条)は,日本学術会議の同意,申出に基づいて内閣総理大臣が行うと規定しています。日本学術会議に無断で,内閣総理大臣が会員を退職させることはできないのです。
日本学術会議が内閣から独立して職務を行う(3条)ために,会員人事に政治が介入しないように制度設計されていると考えられます。
と考えれば,内閣総理大臣に会員の任命権があるとしても,会議の推薦を拒否する裁量はないと考えるのが自然なのではないかと思います。
この問題,どう決着するのかわかりませんが,前にもこんなコトを書いたなと思ったら,定年延長が違法だとして,争いようがないで書いたな。
♪Mr.Children「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」(アルバム:BOLERO収録)
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